-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(78) 中国語会話 中級プレミアム・レッスン
【中国流の説得法---大局観】

小事件大趋势/流言只是一阵风/再斗下去两败俱伤

小事件にも時勢の影/人の噂も七十五日/このままいがみ合ったら共倒れだ
今話は中国人の大局観をテーマに取り上げます。

前話の締めくくりとして、バランス表現に関連する成語・慣用句を挙げ、関連する会話フレーズも例文を追加する予定でしたが、次回に先延ばしすることになりました。

【 中国人の大局観 】
囲碁・将棋やゲームなどでよく大局観の有無が勝負を左右すると言われます。局部の利害得失ばかりに目を奪われていると、攻守の大局が見えなくなり、勝機を失ってしまうというわけです。

さて、大局観と聞いて、すぐ思い浮かぶ中国語の成語・四字熟語といえば、
“顾全大局”、“弘思远益”、“人心所向、大势所趋”、“势不可挡”、“大势已定”、“势如破竹”などがある。またマイナス・イメージの類では“大势已去”、“树倒猢狲散”などが挙げられます。中国人の暮らしの中で、こうした大局観が実際の言語表現に反映されている例文をいくつか挙げて解説します。
マダマダ…!
1.我们都是中国人,虽有立场之别,但没有个人仇恨。
 我们应该团结起来,一致对外。
2.我们都是地球人,虽然有民族、国籍、肤色之别,
 但是同为人类,有着共同的命运和共同的利益。
3.眼下形势非常紧张,我们应该以大局为重。
4.再斗下去,两败俱伤。
5.现在我们需要的不是自责,而是如何应对。
6.我们应该站得高,看得远,想得深。
7.我们应该跟对方谈判,但不是现在。
8.男子汉大丈夫别争一时一地的高低。
9.食少事烦,岂能长久。长此以往,必伤贵体。


★語注:
“人心所向,大势所趋 rén-xīn suǒ-xiàng,dà-shì suǒ-qū”;【成語】人心の向かうところ、大勢の赴くところ ●“势不可挡 shì bù kě dǎng”;【成語】勢い当たるべからず
“大势已定dà-shì yǐ dìng【成語】大勢はすでに定まる ●“势如破竹 shì rú pò zhú”;【成語】破竹の勢い ●“顾全大局 gù-quán dà-jú”;【慣用句】大局を損なわないよう配慮する
“弘思远益 hóng-sī yuǎn-yì”;【慣用句】大所高所から将来の利益を考える
“大势已去 dà-shì yǐ qù”;【成語】大勢はすでに去った ●“树倒猢狲散 shù dǎo hú-sūn sàn”;【成語】棲み処としている木が倒れると、猿も散って逃げてゆく ●“岂能 qǐ-néng”;【文章語】=“怎么能…呢?”;どうして---することができようか(反語) ●“男子汉大丈夫 nán-zǐ-hàn dà-zhàng-fu”;【名詞】ますらお/立派な男子

★解説:
我们都是 地球人♪
▲例文1
“我们都是中国人,虽有立场之别,但没有个人仇恨。我们应该团结起来,一致对外。” ---「我われはみな同じ中国人だ。立場の違いはあっても、個人的な恨みはないはずだ。我われは一致団結して外敵に立ち向かうべきだ」。これは前世紀によく耳にした政治スローガン。国難を前に国民はみんな足並みをそろえ、一丸となって外敵を撃退しようと呼びかけた。これを21世紀の今の世界に当てはめてみよう。一国の範囲を越えて、世界全体を「地球村」と捉える。こうした大局的な発想に基づいて言えば、(例文2)“我们都是地球人,虽然有种族、民族、国籍、肤色之别,但是同为人类,有着共同的命运和共同的利益。( 我われはみな地球人だ。人種・民族・国籍・肌の色の違いはあってもみな同じ人類であり、共通の運命と利益を共有している。)となりましょう。

▲例文3
“眼下形势非常紧张,我们应该以大局为重。”---「目下の情勢は非常に緊迫しており、我々は大局を重視する立場をとるべきだ」。たとえば、世界的な金融危機のような情勢の中では、各国は大局的な立場に立って二国間紛争などを棚上げし、協力体制を築いて危機克服に立ち上がるべきだ、というのが一例。

▲例文4
“再斗下去,两败俱伤。” ---「これ以上闘い続けたら、共倒れして、双方とも重傷を負う結果となる」。勝者なき戦いの無謀さ、無益さを説く慣用句。その根底には往々にして別の深謀遠慮が秘められています。それは第三者に漁夫の利を占められてしまうことへの警戒と危機感。“再斗下去,两败俱伤”には、大局的な情勢判断が働いているはずです。(第36話参照)」

▲例文5
“现在我们需要的不是自责,而是如何应对。” ---「今私達に必要なのは自らの過ちを責めることではなく、如何にしてこの情況に対処するか、なのです」。よくあるパターンは、計画に失敗すると、関係者の間で責任追及が始まり、仲間割れが往々にして起きる。これは物事の大局を見失ったやり方で、新たな禍を招きかねない。まずは態勢を立て直し、失敗による被害を最小限に抑えるのが急務であり、失敗の責任追及や反省は後回しでよい、との考え。

▲例文6
“我们应该站得高,看得远,想得深。”---「我われが持つべきもの、それは大所高所の観点、遠い見通し、並びに深い思慮である」。「天时—地利—人和(天の時・地の利・人の和)」が成功の基本原則ならば、「大局観・先見の明・熟慮」は勝利の方程式、と言えるかもしれない。類似表現⇒“远见卓识(高い見識と遠い見通し)

▲例文7
“我们应该跟对方谈判,但不是现在。” --- 「われわれは相手方と交渉を行うべきです、しかし今は交渉の時ではない」。交渉の機は熟していない、時期尚早だとの考えは情勢全体に対する把握・分析とそれに基づく大局的な判断が働いているはずです。
志を…!
▲例文8
“男子汉大丈夫别争一时一地的高低。” ---「立派な男子は一時期、一地域限りの優劣を人と争うものではない」。端的に言うと、「立派な人間は決してお山の大将などにはならない」。つまり、スケールの大きい立派な人間になるためには、大局観を身に付けることが求められる。(⇒世界に羽ばたく志を抱いて、不朽の業績を上げるためにこそ努力奮闘すべきだ)。

▲例文9
“食少事烦,岂能长久。长此以往,必伤贵体。” ---【文章語】/健康な体が病気に罹る過程を大局的に説いて相手に忠告しているフレーズ。「食は細く、仕事は煩雑、これでは健康生活が長続きするわけがありません。この調子で無理を続けてゆくと、必ずお体を壊してしまうことになるでしょう」。神経をすり減らすような煩雑な仕事をしながら、食欲がなく、食事量が少ない。これは健康が悪化する始まりです。食事量を増やしたり、仕事量を減らしたりしないと、過労で倒れる羽目になる。⇒“积劳成疾(疲労がたまって病気になる)

★大局観に関することわざ・慣用句
大局観に関することわざや慣用句は中国人の日常語に多く見受けられる。こうした諺・慣用句には、大局観から導き出した中国人の生活の知恵や人生訓が凝縮されている。そうしたものが国政レベルに生かされると、政治問題を解決する良策や外交手腕として花開くに違いない。

国土の周囲を大海に守られ、おおむね温和な気候に恵まれた日本列島、さらにほぼ単一民族で構成されている日本国民。それとは異なり、相対的に厳しい自然環境と複雑な地政学的環境に置かれた中国と中国人。歴史的に見ても、古くから王朝の交代が頻発し、分裂・戦乱・割拠の世が長く続き、隣国関係も極めて複雑多岐な多民族国家、それが中国です。

中国人は統一・平和・多民族共生を希求する営みの中で、戦乱を回避したり、利害関係を調整したりするため、複眼的思考方式(第75話参照)(第76話参照)が発達してきた。またより広い視野に立って問題解決を図る必要に迫られて、大局観がいやがうえにも鍛え上げられてきた、と言える。これに「百年の大計(第48話参照)」式の長期展望思考が加わると、「万里の長城」、「北京⇔杭州大運河」のような壮大な開発構想やプロジェクトが必然的に生み出されてくる。

古来の諺である
“人生百年”“长命百岁”“百年树人”“百年之后”丨などが示す通り、物事を100年単位の長期スパンと壮大な展望で考える傾向を持つ中国人。いま世界各国から注目を浴びている「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」がほかならぬ中国人によって考案され、推進されていることは決して偶然ではない、といえましょう。

では、次に大局観に関連することわざ・慣用句を紹介します。
望远能知风浪小---「遠くから眺めると、海上の大きな風波も小さく見えるものだ」⇒大きな困難も考えようによっては、大した困難ではないことに気づく。対句のもう片方は凌空才觉海波平(高空から眺めて、はじめて風波の荒れる海面も平らかに見えるものだ)。現場から離れて、広い視野から観察すると、物事全体の動きが大局的によく把握できる。⇔「木を見て森を見ず(只看树木,不看森林)」

一叶落知天下秋;一叶知秋 ---「一葉散って天下の秋を知る」 

知彼知己,百战不殆 ---「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」。彼我の兵力・武器装備・兵站・指揮官の戦績&戦法等の把握と比較考量を真剣に行い、さらに地形・天候・民心などを含む総合的、大局的な情勢判断をしっかり行えば、必ず戦いに勝つことができる、というわけ。

舍小家保大家 ---「私益を捨てて公益を守る」。みんなの利益ために個人を犠牲にする。公共福祉を守るために私権を制限する現代法に近似する考え方。“舍”=捨

日久才能见人心 ---「付き合いが長いと、人の心がわかる」。短い付き合いでは、人の心の中はなかなか分からないものだ。毎回の付き合いで、人は個別に様々な言動を見せるが、それらがデータとして積み重なって、一つの言動心理の大局が出来上がる。それを全体的に分析、総合すると、その人の心の中が分かるようになる、というわけ。⇒時間をかけて観察すれば、真相や真価を正しく認識、把握できる。対句として“路遥知马力(長い道を乗ってみれば、馬の身体能力が分かる)がある。

百川异源而皆归大海 ---「さまざまな河川はそれぞれ源を異にしているが、最後はみな大海の懐に納まる」。広く分布する地球上の諸々の河川も、超高空から広い視野で眺めると、みな大洋に向かって身を寄せるように流れ込んでゆく様子が縮図として見て取れる。絵に描いたような大局観ですね。類似表現⇒“海纳百川”   

树林子大了,什么鸟都有 ---「林も広く生い茂ると、種々雑多な鳥が棲みつくようになる」。広い森林にはさまざまな種類の鳥が雑多に棲んでいるものだ。中に風変わりな鳥が居ても少しも驚くに当たらない 。⇒広い世の中には変わり者はいるもので、驚くことはないとの比喩。これは冗談めかした言い方ですが、さりげなく大局観を表しています。

小事件大趋势---「小事件にも時勢の影」。小さな事件でも世の中の大きな趨勢を反映するものだ。些細な事だと軽んじないで、よく観察すれば、小事件の中から世間の大きな動き、つまり大局が見て取れる、というわけ。 

牵一发而动全身---「僅かな事が全局に影響を及ぼす」喩え。髪の毛を一本でも引っ張られると、全身が大きくリアクションを起こす。

夕阳无限好,只是近黄昏---「夕陽はこよなく素敵だが、惜しむらくは黄昏が迫っている」。ひときわ大きく真っ赤な夕陽は、見る人々の様々な思いを載せてくれ、とても素敵な存在ですが、間もなく地平線の彼方に沈んでゆく。代わって辺りは薄暗い黄昏が訪れ、続いて暗い夜になる。お日様の顔はさまざま---昼間の明るい太陽・真っ赤な夕陽・夕陽の残照を映す黄昏・日差しの乱反射の残る暗夜。こうした異なる視点から大局的、全体的に夕陽を把握,評価したのが“夕阳无限好,只是近黄昏”でしょう。

民族大义高于一切 ---「民族の大義はすべてに勝る」。隷属と屈辱を受ける民族は必然的に民族解放闘争に立ち上がる。そうなると、民族解放事業はその民族の大義となり、最も重要な位置を占める。民族の将来を見据えた大局観が表れています。

人生无法完美 ---「人生は完璧になりえない」。
完璧な人生を望むのは無理である。人生全体を一つの総体として大局的に観たときの論断でしょう。

流言只是一阵风---「デマは一陣の風に過ぎない」。この諺は流言飛語の譬えとして、しばらく吹いては跡形もなく消えて行く風を用いています。⇒「人の噂も七十五日」。谣言不攻自破(デマは自滅するもの)”とも言う。事実無根なデマの哀れな結末に対する大局的な見方がズバリと表現されています。

★ 大局観の欠如に関することわざ・慣用句.
小不忍则乱大谋---「小事に拘泥すると、大事な計画がかき乱されて、うまく遂行できない」。高い志と広い胸襟があってこそ物事の大局をしっかりと見据えられ、大事を成就できる。類似表現⇒“成大事者不拘小节(大事業を成し遂げる者は枝葉末節に拘らない)

坐井观天 ---「井戸の底に座って天を見る」。これではいけません、視野が極めて狭く、見えるのは天のごく一部だけになってしまう。類似表現⇒“井底之蛙,不知东海(井の中の蛙、大海を知らず)“管见(管見/見識が狭いこと)

一叶障目不见泰山 ---「木の葉で目隠しすると、葉だけが見えて、後ろの巨大な泰山が全く見えなくなる」。
~~~!
棋差一招满盘全输 「一手指し間違えて完敗する/悪手一つによって総崩れし、完敗する(囲碁・将棋)」。局部の争いに目を奪われて悪手や緩手を打ち、それをきっかけに全局が敗色に染まって行く。間違った一手が命取りになった、というわけ。

感情用事,难成大器 ---「感情のままに事を行う者は、大人物になれない」。人は感情に流されると、物事を主観的に見て、好き嫌いで判断しがちになるものだ。また自分の行動が招く結果を客観的、大局的に考えることもしなくなりがちだ。また周囲の人もその喜怒哀楽に振り回されて支持、助力することができなくなる。これでは、わがままな小人物と言われてしまいます。大人物とは「品性に優れ、度量が広い偉大な人物」と定義されています。

★語注:
见 jiàn;【動詞】はっきり現れる/見て取れる ●殆 dài;【文章語】【形容詞】危うい
小节 xiǎo-jié;【名詞】枝葉末節 ●谣言 yáo-yán;【名詞】根拠のないうわさ/デマ

( 2018年1月16日  鄭 青榮 )
【次回第79話に続く】