-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(76) 中国語会話 中級プレミアム・レッスン
【中国流の説得法】
天灾无情 人间有爱/是药三分毒

天災は非情なものだが、しかし人の世には愛がある/薬にも三分の毒
複眼思考のことわざ・味な言い回し
成語やことわざに多用される対句形式は、端的に言えば、みな複眼思考の産物です。では、例文として一般によく知られたことわざや味な言い回しを少し集めて、考察を試みましょう。
小心火烛!
1. 天干物燥,小心火烛。
2. 天灾无情,人间有爱。
3. 树欲静而风不止。
4. 死水易腐,流水不腐。
5. 黎明前最黑暗,成功前最痛苦。
6. 是药三分毒。
7. 不是鱼死,就是网破。
8. 乐观是对抗癌症的一剂良药。


=乾 =燭 =災 =無 =樹 =風 =薬 =網 =楽

★語注:
火烛huǒ-zhú;【名詞】火種 ●人间rén-jiān;【名詞】現世/人間社会 ●剂(剤)jì;【助数詞】煎じ薬を数える単位 ●不是A就是B【セットフレーズ】Aでなければ、Bに決まっている(そのほかは考えられない)

★解説:

例文1“
天干物燥,小心火烛。”「天気が乾燥するにつれて、地上の万物も水分が蒸発してゆく…」。そんな天候の中で火の用心を怠ると、“干柴烈火(よく干した柴と燃え盛る火)”の示す通り一触即発、たちまち火災に見舞われてしまう。「だから火種、火の元に用心せよ」と警告するこの成語に、古人の暮らしの知恵が示されています。乾燥する天気と、その影響下で水分が絶えず蒸発する地上の万物との密接な関係性が成語“天干物燥”によって複眼的に捉えられています。

例文2
“天灾无情,人间有爱。”「天災は非情なものだが、しかし人の世には愛がある」。古くから頻発する地震・洪水・津波・火山爆発・豪雨・落雷・旱魃…。こうした天変地異による人的・物的損失は測り知れない。しかし、人間界には常に被災した人々に寄り添い、天災の痛手を癒す偉大な仁愛パワーがある。だからこそ人類は大自然の猛威に屈することなく、常に天災が残した廃墟の中から復旧、復興に立ち上がる。こうした人類の苦難克服と幸福追求の営みは、永遠に絶えることがない。

このことわざが浮き彫りにしているのは「無情、無慈悲な天災」vs.「温かい愛の心で繫がる人類共同体」。この対立軸は天災に対する複眼的な見方を鮮明に示しています。「非情な天変地異—-苦難の被災民—-集結する同胞愛パワー--生活再建・被災地復興」という構図を端的に表現した
“天灾无情,人间有爱”。この慣用句には、中国人伝統の世界観「天・地・人」パターンが鮮明に表れています。【第30話・味な言い回し“真诚能感动上帝”参照】

ちなみに最近、日本の復興大臣が一連の「問題発言」によって辞任を余儀なくされた事件が起きている。資質に欠ける冷血な国務大臣云々というよりも、そもそも一人の人間として、被災同胞に対する慈悲心は一体どこへ消えてしまったのか?それにつけても“
视民如子,以德为政(民衆をみなわが子と見做して、肉親の情で寄り添い、徳をもって政治を行うべし)”と教えた古人の嘆きやブーイングが聞こえてくるようです。

例文3
“树欲静而风不止。”「樹静かならんと欲すれども風止まず」。樹木は静かにして居たくても、絶え間なく吹いて来る風に枝木を揺さぶられ、思うように安寧を保つことができない。安定志向の樹木にとって、いつもそよそよと吹いて来る微風ならさぞかし心地よいでしょう。ところが、時には突風、時には台風となって強襲して来ることもある気まぐれな風。樹にとって、変幻出没する勝手気ままな風は何とも悩ましい存在に違いない。この慣用句は「人の願望が客観情勢に反していること」、「とかくこの世はままならないこと」を意味しています。人生の無常の譬えでもある。構文からみると「树vs.风」、「欲静vs.不止」と並置して、鮮明な対句形式になっています。

例文4
“死水易腐,流水不腐。”「淀んだ水は腐り易く、流れる水は腐らない」。流れる水は溶存酸素を多く含み、水中の有機物を分解して雑菌の繁殖を抑えるので腐らないが、淀んだ水や水たまりは溶存酸素が少なく、雑菌が繁殖して腐り易い。転じて、運動し、変化する中から活力や強い生命力が生まれるとの意味。まるで絵に描いたようなこの対句は、まさに複眼思考そのものでしょう。“流水不腐,户枢不蠹 hù-shū bù dù;(戸ぼそは虫に食われない)”とも言う。

例文5
“黎明前最黑暗,成功前最痛苦。”「夜明け前が最も暗く、成し遂げる前が一番苦しい」。太陽光線に対する地球大気の乱反射によって、真夜中でも空は少し明かりが感じられるが、夜明け前は太陽光線との角度の関係で一番暗くなるそうです。たぶん夜明け前は、街の明かりがおおかた消えているせいもあるでしょう。

一方、苦難や不幸は終わりかけの時期が最も苦しい。それを乗り越えれば好転し、楽になるものだ。事業経営にしても、往々にして成功する前に厳しい正念場や修羅場に直面する。それは最も精根を消耗する苦しい時期に当たる、というわけです。「夜明け前の暗闇VS.夜明けの曙光」、並びに「成功前の修羅場VS.成功後の歓喜」にそれぞれ複眼思考が表れています。

ある程度の 毒はねぇ… 例文6
“是药三分毒(凡是药都有三分毒)。”「薬にも三分の毒 ( およそクスリであれば、みな毒をある程度含むものだ )」。薬効と副作用はいわば双子の兄弟、どんな薬にもある程度の毒性が伴うもの。保健食品がドラッグストアの店頭で花盛りの時世ですが、サプリの過剰摂取も副作用を引き起こすことがあるので、注意が必要です。

例文7
“乐观是对抗癌症的一剂良药。”「楽観的な生活態度はガンに対抗する良薬である」。クスリは物質タイプのほかに、精神タイプのものがあるという複眼的思考になっています。病人の楽観的な人生態度は闘病中の生活の質を引き上げる効果が期待できるといわれますが、医学的な治療効果は特に認められているわけではないようです。

例文8
“不是鱼死,就是网破。”「生死をかけて闘う」。網に掛かって死を待つ魚となるのか、それとも網を突き破って脱出、生還するのか、という壮絶な死闘の譬え。絶体絶命の魚と、漁師のあやつる漁網との死闘を端的に描写するこの諺に複眼的思考が感じられます。

このほかにも、複眼思考から生まれた成語・諺や味な言い回しは、下記の通り、日常語の中に散見されます。スペースの関係で訳文のみを付記しました。

▲例文9.
失败是人生的营养品。---「失敗は人生の肥やし」

▲例文10.
化悲痛为力量,化压力为动力。---「悲しみを力に変え、プレッシャーを前進パワーに変える」 

▲例文11.
目标一致,策略有别。---「目標は全く同じだが、作戦方法は異なる」 

▲例文12.
有权必有责,用权受监督。---「権力には必ず責任が伴い、権力行使には監督が付き物」

▲例文13.
比上不足,比下有余。---「上に比べれば及ばないが、下に比べればましである」  

▲例文14.
忠言逆耳利于行。--「忠言は耳障りだが、行いを改めるのに役立つ」

▲例文15.
有功必奖,有过必罚。---「信賞必罰」

▲例文16.
祸福相依,因祸得福。---「禍福は表裏一体をなすもの、災い転じて福となす」 

▲例文17.
时势造英雄,英雄造时势。---「時代の流れが英雄を生み出し、また英雄が時代の流れを創る」 

▲例文18.
办法总是比困难要多。---「所詮、困難よりも解決方法のほうが多いはずだ」

▲例文19.
兼听则明,偏信则暗。---「多くの意見を聞けば是非がはっきりするが、一方のみを信じると判断を誤る」

▲例文20.
交情归交情,生意归生意。---「友情は友情、商売は商売」

【次回第77話にに続く】