-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(5)「酔虎」??“醉猫”!! “醉蟹”“醉
 前話で、「水滸伝」をもじった居酒屋の「酔虎殿 SUIKO-DEN」を傑作だと、私は褒めました。理由は、まず語呂合わせが完璧だからです。が、それだけではない。日本語の「虎」にはもともと「トラ=酔っ払い・泥酔者」の意味がある。そこで、「酔虎殿」という屋号から連想できるのは、「酔客の楽園」でしょう。これがさらに、「水滸伝 SUIKO-DEN」に登場する108人の英雄豪傑たちとイメージがダブるので、大勢の飲食客、常連客で賑わう豪華な居酒屋、というふうに想像が膨らんでゆく。加えて、水滸伝のヒーローは、あの“武松 Wu songにしろ、智深 Lu zhi shenにしろ、みな無類の酒好き、ときているではありませんか!

 では、この屋号をそのまま中国へ持って行って店の看板に出したら、どんな反響になるでしょうか?答えは、否定的です。中国人にはどんな場所だかピンと来ないし、意味が不明なので、残念ながら失敗作になってしまうでしょう。それどころか人によっては、酔ったタイガーが大暴れする危険な場所?そりゃー大変だ!!と思ってしまうでしょう。それは、何故か?じつは、中国人は酔っ払いを「トラ」ではなく、「ネコ」に喩えるからです。「酔っ払い」は“醉猫 zui maoと言い、“醉虎 zui huとは言わない。“老虎 lao hu=トラ”のイメージはあくまでも勇猛であり、孤高な密林の王なのです。“白虎 bai huに至っては、神と崇められています。なので、酔っ払ってギャーギャー騒いだり、人に絡んだりする酔漢の言動や仕草の特徴はイメージとして、トラではなくネコのそれに似ている、というのが中国人の捉え方なのです。


 中国の成語に
虎色tan hu se bian (虎と聞いただけで顔が青ざめる)”と言うほど、中国人は古来、最も人喰い虎を恐れてきました。水滸伝の武松の「虎退治物語」は有名です。あれはきっと民間の実話が小説に反映されたものでしょう。日本列島には野生の虎は棲息していないし、歴史上も存在しなかったようですが、人を襲うこともある虎は、いまも「南虎 Hua nan hu アモイ・トラ”および北虎 Dong bei hu アムール・トラとして、中国に棲息しており、当然、虎に対する中国人の警戒心は緩んでいません。こうして両国には互いに大いに異なるトラ事情が介在しており、それが言葉の意味用法の違いとなったといえそうです。

 話のついでに“醉猫”以外に、中国語には動植物にちなんだものとして“醉蟹 zui xie(酔っ払い蟹)”“醉
zui zao(ナツメの酒漬け)”など食に関する用語があります。食材の調理法として“醉”は「酔わせる」から転じて「酒に漬ける」、焼酎などに「酒漬けする」という意味用法があります。蟹といえば上海蟹は日本でも有名になりましたが、あれは中国語では、“ da zha xie と言います。

 
これまで、“包”“虫”“鬼”の話をしてきましたが、いっぽう日本語には、「病魔」、「睡魔」、「悪魔」「通り魔」、「断末魔」、「電話魔」、「メモ魔」など「魔一族」がおります。この一族の中で「病魔=病魔 bing mo」、「睡魔=睡魔 shui mo」、「悪魔=e mo」については、用字も意味も同じですが、あとの「電話魔」、「メモ魔」は別に恐ろしい「魔物」ではないので、中国語では「△△mi」方式によって电话dian hua mi”“笔 bi ji miと言います。「△△mi」はご存知、“歌迷 ge mi 歌好き・歌謡曲ファン”yue mi 音楽ファン”などのように、「△△マニア」、「△△愛好者」、「△△ファン」、「△△に夢中な人」、「△△に熱中する人」の意味でしたね。問題なのは、「通り魔」と「断末魔」です。「通り魔」のほうは固定した熟語が辞書にもないようなので、ひとまず“沿街突然行凶的歹徒 yan jie tu ran xing xiong de dai tuと説明式に訳せましょうが、「断末魔」のほうは語源がサンスクリットなので正確に訳すのは骨が折れます。結局、俗界の「とどめを刺す」と似たような表現なので、「断末魔の叫び」を“垂死扎的惨叫 chui si zheng zha de can jiaoと言えそうですね。(次回に続く)