-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(43)中国語会話 中級プレミアム・レッスン
皮肉な言い方
好大的醋味儿啊! / 你的脸皮比我还厚啊!

 第17話から前話まで、初級レベルの例文にまつわる話が約1年間続きました。実用本位の、わりと易しい馴染みの例文を多く挙げたのは、習い始めてまだ日の浅いみなさんへの配慮がありました。今話から趣向を変えて、文法的にみて初級程度でも、表現形式や内容において中国的特色を帯びた目新しいものを多く取り上げて、みなさんに紹介してまいりたいと思います。主として中国人の自然体の日常会話を題材にしていますので、初級の枠に納まり切れず、中級レベルのものも含まれています。そんなわけで、タイトルを「中級」と表示しました。

 最初に登場してもらうのは皮肉表現に関するフレーズです。中国的特色を浮き彫りにし易いジャンルだからです。各例文ともそれぞれひねりの入った言い回しになっており、分厚い辞書の助けを借りても意味がよく掴めない、そんな曲者たちを集めてみました。いままで見落としていた何か新しいものに触れることができるのではないかと期待しています。それが実力アップを目指すみなさんの学習の一助になれば幸いです。

 往々にして、言葉の表層の奥には、字面と異なるメッセージを含んだ深層が存在するものです。では、深層には具体的に何が潜んでいるのか?その深意、はては真意が何なのか?これは重要事項です。中国人の物の言い方から、中国人の思考回路、ひいてはその心理状態にアプローチして行きます。それが読者の皆さんの中国・中国人に対する理解の足しになれば幸いです。

①你脑子是干什么用的?  おまえのアタマは一体、何のために使っているの?

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②你这是够漂亮的借口。  それはじつにご立派な口実ですね

ƒ③你学会动脑筋了。  アタマの使い方を覚えましたね

„④你的脸皮比我还厚啊!  厚かましさではあなたに敵いませんよ。

…
⑤你说瞎话的水平差远了。  あなたのウソはじつに下手くそですね。

†⑥你的话我怎么越听越糊涂?  あなたの話は、聞けば聞くほどわけがわからなくなりますけど、どうしたものか?(私のアタマが変なのかしら、それとも…?)。

‡
⑦好大的醋味儿啊!  ひどく嫉妬しているんですねえ。

⑧ˆ你是选妃子,还是选媳妇?  あなたは妃選びのおつもり?それとも嫁探し?どっちなの?

‰
⑨太多疑的话,很容易让你衰老的。  「ひどく疑い深い人は、老け易いですよ」。

Š
⑩下辈子做好人吧。  来世は善人になりなさい。

★語句注&解説

●例文①---脳天に痛烈な忠告が降って来る! 

疑問形
“你脑子是干什么用的?”は一見、「頭脳の効用とは何ぞや?」という原理的、根源的な問いかけに酷似。文脈上も“干什么用?”は、一般に使われる“用来干什么?”と異なり、強い詰問調になっています。でも、このセンテンスは、決して単純に頭脳の使い道を相手に尋ねているわけではありません。となると、これはやはり曲者---反語文ですね(※第33話参照)。
 アタマを使おうとしない相手を皮肉った言い方になっている。つまり、「こういうときにアタマを使わないで、一体どんな時、どんなことをするのにアタマを使うつもり?こういう時にこそ、アタマを使いなさい!」というメッセージ。具体例としては、例えば仕事に対して創意工夫を怠り、アタマを使おうとしない凡庸な部下を叱責する上司の口からよく飛び出す言葉です。

●例文②---不気味なほめ殺し?!

“借口 jiè-kǒu”とは責任逃れや弁解のための理屈・口実のことで、マイナスイメージの言葉。ところが、これがプラスイメージの“够漂亮 gòu piào-liang”に修飾されて、一種独特の違和感を醸し出している。いかにも褒め言葉の“够漂亮”を用いて相手の行為を絶賛したように聞こえるが、実際は褒め殺し。マイナスとプラスの大きな落差が皮肉の強烈さを増幅させています。逆に弁解した側にとってみれば、完璧だと思って述べた口実なのに、思わぬ弱点やボロを見抜かれてしまったようで、きっと狼狽してしまうでしょうね。

●例文③---事態の変化を確認する語気助詞
“了”が大事な役目を果たしています。
动脑筋 dòng nǎo-jīn (頭脳を働かせること)”は、人類の最重要事項の一つ。明らかにこの文は、いままで脳を遊ばしていた相手を遠回しに皮肉っている。しかし、あまり嫌味は感じられない。それよりむしろ努力の末、“学会 xué-huì 学んで身に付けた”と相手の成長を励ます意味のほうが勝っている。「爽やかな皮肉」ですね。言われたほうは、照れ笑いか、苦笑がお似合いでしょう。

●例文④---これは口喧嘩で相手を皮肉る際によく聞かれるフレーズです。使われている文型は比較構文“
A比B还C( AはBよりもっとCである)”。次に語彙を見ると、“脸皮厚 liǎn-pí hòu”が注目点。元々“厚 hòu”は「情けが深い」、「厚遇する」などとプラスイメージの言葉。ところが“脸皮厚 liǎn-pí hòu”は例外で、「厚かましい/図々しい」というマイナスイメージの意味に変わっている。これが比較構文の中に使われると、いわば「破廉恥比べ」するという異常な展開になる。

 なのに、中国人はこんなフレーズをなぜよく使うのか?その理由は、相手の心理的反発を弱める意図が含まれているからではないかと思われる。なぜなら、これを仮に“
你这个人脸皮真厚!(おまえは実に厚かましい奴だ!)”と頭から決め付けたら、メンツを重んじる中国人はすぐに逆上して喧嘩になってしまう。ところが、自分も「面の皮が厚い」と認めてしまえば、二人とも「同じ穴のむじな」になるので、言われたほうは苦笑こそすれ、喧嘩にはならないはず、と踏んでいるからでしょう。なかなかしたたかな責め方ですね。
 では、面の皮の厚さを問題にする考えはどこから生まれたのか?おそらく、儒教の教え「仁義礼智信忠孝廉恥勇」の「恥」、つまり「恥を知る心」からでしょう。ただ、新旧の価値観が複雑にせめぎ合っている現在の中国において、「恥」に対する考え方は揺れ動いている。激しい生存競争の中で勝者となるには、「図々しく振舞うほうが得だ」という考えの人も少なくない。
  
●例文⑤---辞書には“
说瞎话 shuō xiā-huà (ほらを吹く)”、“差远 chà yuǎn(遥かに劣る)”と載っている。正攻法なら、「見え透いた下手なウソを言うのはおやめなさい」とストレートに非難すれば済むものを、そうしないで、むしろ余裕たっぷりに「お前の嘘のつき方はすごく幼稚で未熟だね」と皮肉る。言外に「俺だったら、そんな下手な嘘は吐かないさ」と自分の老練ぶりや優位性を誇示している点がセールスポイント。人生の達人や古狸の口から出そうな言葉ですね。

●例文⑥---皮肉とは「相手の欠点や弱点を意地悪く遠まわしに非難したり、嘲笑したりする」言葉ですが、この例文は皮肉り方がいかにも遠まわしなのが特徴になっている。なぜなら、相手の話が「訳の分からないもの、理屈の通らないものだ」と認識していながら、物腰が至って寛容で、逆に自分に対しては“
糊涂 hú-tu(物分りが悪い)”などと貶める表現を使っているからだ。相手に対する非難をおくびにも出してはいない。
 しかし、
“怎么…?”が付いているので、「聞けば聞くほど訳が分からなくなるのは、なぜでしょうか?これって、変じゃありませんか?」と、とぼけながらも、訳の分からぬ話を何とかしてほしい」と弱々しいシグナルを相手に送っている。真意は「聞くほうがもっと分かるように話してほしい、話の筋を通してください」。
   
●例文⑦---初級文法で習う「名詞述語文」の応用例が登場しました(※“
好大的风啊!「ひどい風が吹いていますね」”)。ポイントは“吃醋 chī-cù(焼餅を焼く)”です。
   
●例文⑧---「英雄と美女」の物語がよく語られてきた中国。現代の美人コンテストにも通じる歴代王朝で行われてきた皇帝の妃選び。21世紀のいまでは、平民レベルで“
白富美 bái-fù-měi(色白で、金持ちで、美人)”がもてはやされている。その昔、皇帝は全国各地から妃候補を集めさせたが、現代の中国では、嫁選びするのにインターネットを使って、全国の「白・富・美」な女性をあれこれと検索し、追い求める人が少なくない。それではまるで昔の「妃選び」ではないか、と皮肉るわけです。
   
●例文⑨---猜疑心の強い女性に対する遠まわしな忠告のようだ。「猜疑心は若さと美貌の敵だ」、という主旨の忠告ですが、猜疑心が強すぎると、本当に老け易くなるのか、因果関係が必ずしも明確ではないところが弱点で、女性からの思わぬ反撃に遭うかもしれません。
   
●例文⑩---悪に染まって悔い改めない者の今世はもう終わりです。あとは来世に善人となるのみ。恐らく、なかなか使う機会のない「決めセリフ」ですが、皮肉度は最高級ですね。
(次回に続く)