-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(11)伸び縮みできるサンドイッチ型動詞グループの話
面他”が、ダメなわけは?

 中国語の(jiàn)(=見)にはいくつかの動詞用法があります。初級でまず習うのが「面会する」です。例えば、“再とか、“他要来=彼はあなたに会いに来ます”などなど。次に、このから生まれた熟語がjiàn miàn=「相手と会う/人と顔を合わせる」です。文法的にみて、面”の内部構造は「動詞+名詞性目的語“面”」。つまり、という動作と密接に関係するもの、無くてはならないもの、それは“面(miàn)=顔です。顔もない相手と会うなんて、第一、気味が悪いですからね。中国語文法では、動作・行為と密接に関連する人物・事物が目的語の役目を務めるので、動詞“面”=顔を目的語として従えている構造になっています。

 
ここで、問題が一つ浮上!?
 他”がよくて、面他”ではなぜダメなの?だって「動詞+目的語“他”」でしょ?どこがいけないの?うーむ、一理あります。が、そうなると、
「動詞
+代名詞性目的語“他”
=動詞+名詞性目的語“面”+代名詞性目的語“他”

となり、見かけ上、は二つの目的語を取っているように見える。ところが、この二つの目的語同士の意味関係をみると、“面”(=かお)は(=彼)に従属し、その一構成部分に過ぎない存在なのです。「そのくせ、偉そうに“他”と並んで、独立対等な目的語に成りすましている」、などと異論が出そう。この点、理由はあとで述べますが、やはりルール違反を免れない。なので、矯正処分の対象とされ、結局、面他”“面”は動詞の目的語の役からはずされ、残った他”が正解となります。

 
でも、このつまはじきされた不憫な“面”には、追放されずに生き残れる道があります。一面=「彼に一度会う」というふうに、パートナーを変え、さらに居場所を変えることです。つまり、“面”を「顔」=名詞ではなく、「動量詞」として働かせ、新コンビの“一面”に変身させる。そうすると、“一面”他一面”という動詞句の中で安住の地を獲得し、事は丸く収まります。一見、簡単に見える単語“面”にも、じつに17種類もの意味用法があり、その一つが、「面会の回数を数える単位」=動量詞なのです。これは予想外のどんでん返しではありませんか。面会が一回なら“一面 yí miàn、何回もなら“好几面 hǎo jǐ miànと使える。名詞のままなら、生き残れない“面”も、動量詞という別の顔を持つお陰で、したたかに生き残ったのです。こうした変身によって生き残れるところをみると、文法の世界にも「適者生存」のルールが当てはまる、というわけですね。

 
ほかに、もう一つの矯正方法があります。今度は逆に、面他”“他”を一旦はずし、これを動詞面”の修飾成分に変身させます。その際、“他”と“面”の橋渡しをする仲介役として必要なのが、介詞(=前置詞)です。この場合、“跟”を起用し、前置詞句“跟他”を作って、動詞面”の前に戻す。すると、“跟他”は、連用修飾語として用言面”をガッチリと修飾し、“跟他=「彼と顔を合わせる/彼に会う」”と、立派に動詞句を構成する。もちろん、これも正解となります。ちなみに、“面”といえば、類語の liǎn(=顔)”を連想しますが、柔軟で融通無碍な中国語は、なんだか四川劇の人気出し物「変臉」の変幻自在ぶりに相通ずるところがあるではありませんか。
 
ここで注目したいのが、他の多くの動詞とは異なるの独特の動きです。これを応用展開してみると、
 见面 /一面→△面/他一面→△△面/见过他一面→△△△面
 见过他好几面→△△△△面
と、まるでサンドイッチみたいな面”ですね。 “面”の両者は、結合状態がゆるいのが特徴で、他の成分を間に挟み込み、膨張しつつ距離がかなり広がって行く。それでも、まるで伸びたゴムひものように、結び付きは強靭で壊れません。不思議といえば不思議な面白い現象ですね。こんなふうに伸び縮みできる機能を備えた動詞を「離合詞」といいます。この離合詞グループは日常の口語体表現としてよく使われる。初級あたりで習う単語の中では、客”“假”“放假”“婚”“离婚”“游泳”“晕车”“占线”“注意”などなどが、じつは離合詞一族のメンバーなんです。というわけで、中国語の「迷宮・動詞エリア」の必見スポットの一つとして、離合詞グループの探査・学習をお勧めしたい。独特の動きを見せる離合詞一族の生態が分かれば、中国語口語表現の特徴もクセも掴めてきます。

 
ところで、二つの目的語を取れる動詞として、“教”“送”“借”“找”“告などが初級あたりの例文として必ず登場します。通常、基本形として、例えば“我教你汉语(私はあなたに中国語を教える)=主語+動詞+人物目的語+事物目的語のように並ぶ。二つの目的語は“教”との意味関係において、必ず互いに独立した「人物」と「事物」の組み合わせであることが必要条件になります。つまり、この例文では、人物“你”と事物汉语はそれぞれ別個のもので、互いに独立し、独自性を保つ。“我找你三块钱(あなたに3元お釣りを渡します)も同様です。

 
ところが、面他”では、人物“他”と人物の一構成部分“面”の組み合わせになっており、前記の独立性の条件を満たしていない。したがって、は二つも目的語を取れない。なので面他は成立しない、と解釈できるわけです。また意味の面からみても、両者には大きな違いがあります。二重目的語を取れる“教”“送”“借”“找”“告などの動詞グループは、いずれも主語の人物と目的語の人物との間で金品の授受や貸し借り、情報のやり取りや知識・技能の伝授などの行為が伴うものですが、(=面会する)”のほうは、意味的にそのような条件を満たしてはいない。というわけで、面他”という言い方は、中国語として結局、失格なのです。(次回に続く)